投稿日:2022.7.5、更新日:2023.7.6
こんにちは!
この記事は、JFEホールディングス【5411】に関心のある方に向けた株主としてのコメントをまとめたものです。
なお、2023年6月の株主総会の内容を追記し、記事をアップデートしています(更新箇所は青字です)。
・PBR=0.5〜0.6
・経営の決断とスピード
★★★
【目次】
【株主総会の会場となった帝国ホテル】
1 JFEホールディングスについて
⑴ 会社概要
粗鋼生産国内2位の会社。
売上高5.2兆円、総資産5.5兆円、時価総額1.2兆円の事業規模です。
PBRが0.55倍と非常にブランド価値が低く評価されています。
企業理念
「常に世界最高の技術を持って世界の貢献する」
セグメント
下記3つの中核子会社から成り立っています。
⑵ 株主になったきっかけ
割安かつ高配当ということで2022年の年明けに購入しました。
期待通りの高配当をいただいています。
⑶ 2022年3月期の経営分析
収益性
・売上高総利益率:12%
・売上高営業利益率:4%
前期よりも収益性は低下しています。
日本製鉄が
・売上高総利益率:16%、
・売上高営業利益率:11%
であることを考えると同一業界でも大きな差がついていることが明らかです。
やはり、価格競争力やコスト改善等の構造改革の遅れが原因と推察します。
安全性
・流動比率(100%以上が望ましい):154%
・自己資本比率(30%以上が望ましい):40%
安全性については短期的にも中・長期的にも問題となるレベルでは無いようです。
ただし、日本製鉄の方ば数値的には高く差がついてしまっています。
効率性
・有形固定資産回転率:2.79
前期と同レベルの数値です。
ただし、日本製鉄よりも数値が高く、やや効率的な経営がなされていると考えます。
⑷ 2022年3月期の経営分析
収益性
・売上高総利益率:15%
・売上高営業利益率:9%
2期連続の赤字から黒字回復しています。
ただし、業界首位の日本製鉄に収益性の良さでは及んでいません。
この点について株主からの質問で会社の見解を伺うことができました(主な質疑応答をご覧下さい)。
安全性
・流動比率(200%以上が望ましい):160%
・自己資本比率(30%以上が望ましい):39%
財務面は問題となるレベルではありません。
しかし、安全性に関しても日本製鉄の方が良い数値となっています。
効率性
・有形固定資産回転率:2.36
製造業の平均が3.22であることを考えると効率的な経営については平均値に至っていないと考えられます。
利益を生む有形固定資産を考えると構造改革が必要なレベルにあると見なすことができます。
【2023年6月の株主総会の看板】
2 株主総会等
⑴ 2022年6月の株主総会
第21回定時株主総会 2023年6月27日(火) 帝国ホテル 孔雀の間
遅れて会場に足を運びました。
ちょっと、ギスギスした雰囲気でした。
主な質疑応答
Q.社員の平均年収について
A.750万円であり低い水準ではない。
また、賃上げも3.3%実施している。
Q.PBR低迷について
A.現在、0.5〜0.6程度で推移している。
脱炭素の風潮の中、投資家の中に鉄鋼は買いずらいとの認識があると分析している。
当面はROEの向上に努めるとともに長期的には超革新的な技術で脱炭素問題を解決することが理想と考える。
また、海外(特にインド)が成長の源泉であり、量から質への転換を通じて高収益性の達成に努める。
Q.長期化する役員の活性化について
A.現在の社外取締役は3〜5年。
製造業はその理解に3年はかかるので長期化はやむをえないと考える。
Q.熱中症になりそうな暑さなのに、水も出ないことはショックである。
A.申し訳ありません。
感染症対策の一環ですが、次回からは対応させていただきます。
Q.閉鎖された高炉に勤めていた従業員について
A.面談にてあららな職場探しを支援させていただいている。
Q.役員数が多いのでは?
A.現在の業務を考えると最低限の人数であると考える。
Q.水素の調達について
A.国が策定した水素基本戦略(2015年、2023年改定)に基づいて実施している。
鉄鋼のニーズだけでいっぱいいっぱいになりがちではあるが、先のことを予測するのは難しい。
よって、自社オンリーで賄うことは難しく、さまざまな取組が重要と認識している。
例えば、電力が安いオーストラリアで水素生成して日本に輸入することも選択肢の一つである。
複線的に考えていく。
Q.PBR1倍割れ解消について
A.カーボンニュートラルの影響を受けている。
この問題に対しては研究開発に注力している。
また、
PBR×PER=ROE
であり、利益を上げてROE向上を通じて1倍割れ解消に努める。
Q.談合問題について
A.裁判中でありそれを踏まえて処分するとともに、コンプライアンスを引き続き強化していく。
Q.当社のTVコマーシャルについて
A.創立20周年を記念して行なったものである。
Q.川崎市池上町の不法占拠について(固定資産税は払わなくていいのでは?)
A.川崎市とともに適切に対応していく。
Q.JFEスチールの子会社の公害問題について
A.法令を遵守しつつ姫路市の指導を仰ぎながら取り組んでいく。
決議事項
・剰余金配当の件
・取締役8名選任の件
拍手を持って承認・可決されました。
株主総会雑感
技術は一流なのに市場の評価が低いことから東芝が思い出されました。
思えば、東芝は米国の原発会社ウエスティングハウスへの投資が失敗し、不適切な会計を経て株価が暴落して物言う株主の台頭、そして上場廃止への道を辿っています。
同じように、当社も中国投資で失敗(アステラス製薬の幹部社員拘束等の事件を含む)し、市場からの評価が更に悪化してアクティビストに狙われるのではないかと懸念しています。
株主総会でも、その点につての指摘は皆無。
日本製鉄が”中国の損切り”に舵を取っているのに当社が決断できないのは会社の存続に係る大きな問題だと思いました。
日本製鉄以上に技術は素晴らしいと感じているので、経営の決断とスピードに期待します。
【2022年6月の株主総会の看板】
⑵ 2022年6月の株主総会
第20回定時株主総会 2022年6月24日(金)帝国ホテル 孔雀の間
社長が司会のもと、2期連続の赤字からV字回復したことが説明されました。
事業報告の中で3つの事業について紹介。
そして、量から質への転換の重要性が強調されて審議へ。
主な質疑応答
Q.今後の中期経経営戦略の進捗について
A.構造改革による500億円と生産性向上による500億円の1000億円の積み上げを目指す。
Q.工場内の猫について
A.工場内に住み着いた猫について保険当局と協力しながら適切に対処する。
Q.子会社3社の親子上場について
A.当局の指導に従い手続きをしている。JFEコンテナについては完全子会社化した。
残りの2社については競争を維持する観点から上場のままとする。
Q.川崎市池上町の不法占拠について(約3〜4名で同様の質問)
A.川崎市と協力しながら適切に対処している。
Q.PBRが1倍を切っている株価水準について
A.市場が当社の業績の安定性を見極めようとしているのではないか?
ROEなどの指標に着目しつつ適時IRを発出していく。
特に、カーボンニュートラルに関すること革新的な技術が今後を左右すると考える。
Q.配当性向30%にこだわらずに研究開発費に投じることについて
A.会社の基本方針として株主に報いることを大切にしていく。
Q.日本製鉄に比べ収益力が低い点について
A.日本製鉄の収益性は25%に対して当社は15%となっている。
原因は販売価格と固定費である。
対策として、販売価格の改善と構造改革による固定費削減を実施する。
Q.グローバリゼーション終了の影響について
A.鉄鋼市場で大きな変化が生じているが、中国からは手を引くことはできない。
Q.10年後を見据えた今後の組織体制について
A.(洋上風力発電の例を挙げ、)3つの事業のシナジーを追求していく。
現在は、事業構造を見直す時期ではない。
決議事項
・剰余金処分の件
・定款一部変更の件
・取締役8名選任の件
・監査役3名選任の件
拍手を持って賛成・可決されました。
⑶ 株主還元
配当
一株あたりの配当の推移は下記の通りです。
赤字の間も配当を継続したのはある意味、立派だと思います。
2023年3月期:80円
2022年3月期:140円
2021年3月期:10円
2020年3月期:20円
2019年3月期:95円
株主優待
自社グループの会社説明会及び各製鉄所・事業所の工場見学の開催
【総会会場の様子】
3 株主としてのコメント
⑴ 事業分散の良さ
コロナ禍の影響で2期連続の赤字からV字回復を達成しています。
一般にリスク対応として、事業ポートフォリオの分散がなされます。
その意味で、鉄鋼事業、エンジニアリング事業、商社事業の3つがリスク分散に寄与しているのではないかと考えます。
併せて、会社が例に挙げた洋上風力発電のような各事業のシナジー効果が発揮されれば回復に弾みがつくと予想します。
⑵ ブランド力
PBRはのれんやブランド力などの無形の価値を意味します。
その点でJFE HDの0.4倍というのはブランド力の無さを物語っています。
また、PBRについてはエーザイがESG経営によって高めてきた取り組みが有名です。
ESGと言っても「JFEだより」に記された一般的な内容ではありません。
具体的にはエーザイが実施した、女性役員の登用、従業員の給与の見直しなどのことであり、今後のブランド力向上を意識した経営を望みます。
⑶ チャイナリスク
米中対立、ロシア制裁、中国の不動産バブル崩壊やロックダウン等のチャイナリスクが高まり続けています。
社長からは、中国から簡単に手を引くことは出来ないという発言もありました。
グローバル4拠点として、いまだに中国が残っています。
日本製鉄の社長は、「中国には市場としての魅力がない!」と既に株主総会で明言されています。
いずれ”中国の損切り”が不可避なら早い方が良いと思います。
⑷ 経営におけるスピード感について
日本製鉄が3年前に実施したリストラをこれから手がけることや、未だに中国から手を引くことができない経営は何を意味しているのか?
スピード感の欠如ではないかと思います。
先延ばしの組織文化があるのかもしれません。
では何故、経営のスピードが遅いのか?
会社を改革していこうとする意識や覚悟が足りないからではないかと思っています。
その根拠は、総会の質疑応答における担当役員の専門用語の羅列による無機質な解答を数多く聞きながらそう感じました。
残念ながら、株主の質問に真摯に応えようとする姿勢が希薄であり、これでは株主が納得したり共感するのは難しいだろうと推測します。
そのような経営陣のコミュニケーション力で多くの社員を率いて改革を行うのはちょっとハードルが高いかもしれません。
市場がJFE HDに対してPBR0.4倍という極めて低い評価を下しているのは単に業績が安定していないという表面的な事象によるものではなく、経営スピードの無さや経営陣の意識の問題であるということに腹落ちしました。
4 まとめ
JFEホールディングスについて述べてきました。
2期連続の赤字から一転して黒字へとV字回復したにも関わらず、PBRが0.55倍と著しく低い評価について疑問を持っていました。
そして、日本製鉄との比較をしながら、構造改革の遅れや経営陣のスピード感の無さが会社のブランド力の失墜に影響していると指摘しました。
心ある株主が経営陣のスピード感ある決断のために背中をもっと押してあげても良いように感じました。
技術力は高いので、覚悟を持ったスピード感のある経営が実施され飛躍的な発展を遂げることを夢見つつ、会社を注視していこうと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。
※当ブログに掲載されている所感は、あくまでも個人的見解に基づくものであり、特定銘柄への投資を推奨するものではなりません。投資は自己責任でお願いします。
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