初投稿:2021.5.21、更新日2021.12.27、2022.5.28
こんにちは!
この記事は、ドトール日レスホールディングス【3087】に関心のある方に向けた株主としてのコメントを記したものです。
2022年5月の株主総会についての内容を追記し、記事をアップデートしています(更新箇所は青字です)。
・株主総会で感じた3つの”虚構”
・個人がお金と上手に付き合うための3つの資本について
★★★
【目次】
1 ドトール日レスホールディングスについて
⑴ 会社概要
ドトールグループとと日本レストラングループの合併会社。
カフェやレストランでおなじみ。
総資産1182億円、売上高1093億円、時価総額689億円の事業規模。
時価総額が総資産や売上高に比べて小さいのは、市場や投資家からのブランド価値が低いことを意味しています。
会社は良い商品やサービスを提供することで、消費者へのブランド価値の向上を目指していますが、何故、投資家からのブランド価値はこのように低いのでしょうか?
ちなみに、会社のHPでは
「外食産業における日本一のエクセレント・リーディングカンパニー」を目指す!
とあります。
⑵ 株主になったきっかけ
カフェ仕事でドトールコーヒーを愛用していたため。
ちなみに、DVC(ドトールバリューカード)のプラチナランク会員(年間5万円以上購入)です。
⑶ 2022年2月期の経営分析
収益性
・売上高総利益率:59%
・売上高営業利益率:−2%
昨年に比べれば収益性は向上していますが、営業赤字であることはコロナ禍の影響から回復していないことを意味しています。
安全性
・流動比率(200%以上が望ましい):300%
・自己資本比率(30%以上が望ましい):80%
財務面では問題ありません。
社長も株主総会の中で財務基盤が盤石であることを述べていました。
効率性
・有形固定資産回転率:2.43
昨年より若干回転率が高まっており、資金の効率性が高まっていると考えられます。
一方で回転率の高まりは、不動産等に投資があまりなされていないことでもあり、
「ある意味、”立地家業”である会社にとって、将来に対する不動産投資がどのように進捗しているのか?」
が気になっています。
⑷ 2021年2月期の経営分析
売上高3割減などかつてない厳しい赤字決算でした。
それでも会社経営には大きな影響はなさそうです。
連結計算書類から計算してみました。
収益性
売上高総利益率:58%(昨年は60%)
原価が低く粗利率は比較的高いビジネスモデルだと考えます。
ただし、外食産業は原価3割が基本であることを考えると、それほど優れているわけでもなさそうです。
安全性
流動比率:315%
当座比率:235%
負債比率:23%
自己資本比率:82%
事業報告のビデオでも触れられていましたが自己資本比率が高く強固な財務基盤であることが改めて確認できました。
2 株主総会等
⑴ 2022年5月の株主総会
第15期定時株主総会 2022年5月25日(水)セルリアンタワー東急ホテル
質疑応答
Q.EPS(一株当たりの純利益)の低下に対する対策について
A.既存事業の強化、とりわけ生産性の向上が縦横と考える。そのために、機械化やAIの活用による効率化や投資やサプライヤーとの協力におるコスト削減に努める。
Q.株主優待の拡充について(500株の株主から持株数に応じた優待の拡充の提案)
A.貴重なご意見、ありがとうございます。
Q.星乃珈琲が現金オンリーな理由(バリューカードも使用不可)について
A.バリューカードはドトールによるサービス。星乃珈琲は日本レストランシステムによる経営で別会社。システム統合には数十億円のコストが見込まれるため当面は現状のまま。
Q.社員教育について(店舗によってサービスの品質に差がありすぎる)
A.社員教育には力を注いでいるが、現実には十分ではないことも認識している。引き続き、取締役全員がクレームに目を通したり、パートナーコンテストによりサービスの品質を競ったりしながらサービスの向上につとめていく。
Q.為替の影響について
A.豆の買付への影響が考えられるが、半年先を見据えつつステークホルダーへの影響を考慮して取引を実施しており、直ちに大きな影響が出るとは考えていない。
Q.価格改定について&(500人のオーナーが10万ずつ出し合って、会社も5000万円負担し、1億円をかけてTVCMを行うことで客数ダウンの抑制を図る提案)
A.価格は原価の積み上げで決めればよいというものではない。お客様に喜んでもらえる220円の価格の価値を重視してほしい。一方で、企業努力で原材料価格を抑えることの限界も理解している。単価の高い商品やサービスの提供も検討している。
決議事項
●剰余金処分の件
●定款一部変更の件
●取締役9名選任に件
●監査等委員である取締役3名選任の件
●補欠の監査等委員である取締役2名選任の件
●取締役の報酬等の額設定の件
●監査等委員である取締役の報酬等の額設定の件
●取締役に対する譲渡制限付株式の割り当てのための報酬決定の件
滞りなく賛成・可決されました。
⑵ 2021年5月の株主総会
2021年5月25日(火) 第14期定時株主総会 セルリアンタワー東急ホテル
決議事項
・剰余金処分の件
・取締役10名選任の件
残念ながら大林会長は体調不良のため欠席。
株主総会開始とともに会場から拍手が沸き上がりました。
赤字に終わった事業報告につづき対処すべき課題が説明されました。
・日レス:収益性の高い立地を厳選する出店戦略
前から、
ドトールと日レスは同じ会社になる必要があったのだろうか?
と疑問を持っていました。
上記の課題を見ても、方向性が全く違います。
合併による相乗効果はあまり感じられません。
それでも、今回、それなりに合併した意味はあったのではないかと思いました。
それは、
・コロナ禍に左右されない強固な財務基盤
・株主からの質問にてきぱきと答える社長の(煙に巻く)答弁
・株主総会招集通知で明記されている9つの事業リスクの明記(ここまでリスクを明記できる企業は多くない)
などを踏まえての結論です。
思うに、社内でドトールグループと日レスグループの激しい切磋琢磨が14年間続いてきたのでしょう。
その結果、コロナ禍にもたじろがない守りに強い組織づくりに寄与したものと考えます。
主な質疑応答
Q.既存事業の再強化の進捗は?
A.常に考え行動している。例えば、カフェレクセルのような派生型店舗もそのひとつ。
Q.M&Aの取り組み具合は?
A.準備はしているが、具体的案件はまだない。
Q.アジア市場を巡る展開は?
A.シンガポールをはじめ着実に取り組んでいる。
Q.(ドトールショップのオーナーから)今年は大赤字で借入金による債務超過の状態。来年から返済が始まり生きるか死ぬかの瀬戸際。価格改定の可能性は?
A.状況に応じて慎重に価格決定をしていく。
Q.経常利益率の5~7年後の展望は?
A.まずは、黒字復帰。中長期的には売り合が高経常利益率7%程度を目指す。
Q.プライム市場を目指すために社外取締役を3分の1以上に大幅に増やすのか?それともエクスプレインで逃げるのか?
A.現状でプライム市場は可能だと考える。取締役の急な大幅入れ替えは好ましくない。エクスプレインで対応する。
Q.大林会長の本に飲食業における不動産の重要性が書かれていた。ある意味、好機なこの時期の不動産戦略を推進し得る取締役はいるのか?
A.会長の本を読んで頂き感謝します。ご指摘の通り、飲食業はある意味”立地稼業”と認識している。天間取締役を中心に(豊富な経験を持つ社長も含めて)しっかりと取り組んでいく。
⑶ 株主還元
配当
一株につき12円
株主優待
食事券
●100株:1000円
●300株:3000円
●500株:5000円
3 株主としてのコメント
⑴ サンマルクカフェとの比較(2021年5月時点)
サンマルクは20店舗減、2期連続赤字、社長交代という状況です。
これに対してドトール日レスは50店舗増、黒字転換(赤字は1期のみ)、現体制維持です。
明暗を分けたのは何か?
両社とも、良い商品、良いサービス、良い店舗と言う点では差はそれほど無いように思います。
違いを分けたのはビジネスの”仕組み”の部分だと考えます。
四季報によるとサンマルクについては「・・賃料負担重く営業赤字継続。」とあります。
これに対して、ドトール日レスの社長は株主総会で、「我々のビジネスはある意味、立地家業」と答え、実践してきたことが業績に良い影響をもたらしていると考えます。
また、自己資本比率もサンマルクの65.3%に対して、ドトール日レスは80.5%で資金の余裕の点でも有利です。
では、ドトール日レスの経営の強みの源泉は何でしょうか?
●ドトール日レスの経営の強さ
やはりドトールと日本レストランの2つの会社の合併が現在の強みの源泉だと考えます。
「飲」とフランチャイズのドトールと「食」と自前の日本レストランの関係が相互補完であり理想的だったこと。
そして、結果を残せなかった鳥羽一族がドトールの創業であるにもかかわらず経営から手を引いているという実力主義。
さらに、両社の切磋琢磨があったからこそ、守りに強く、そして攻めに転じやすい経営に繋がったのだと思います。
●『外食・非常識経営論』
ドトール日レスの大林会長の著書を読むと、
「外食産業や小売業には、脇を固めることもせずに拡大路線に突き進む経営者が少なくない。」
とあります。
まさに、コロナ禍の外食産業に参考になる経営ノウハウが満載です。
著者である会長は批判の大切さを強調されており、その結果が「いい会社」に繋がったと説明されています。
そして批判は周りだけで無く自分自身に対しても有効であるとのこと。
自分に対する批判を忘れないことで、慎重かつ柔軟な判断が可能になるとの事です。
また、批判精神は、経営のみならず投資にも有効だと考えます。
銘柄選びを慎重に行い、見込み違いに気づいたら柔軟な判断(損切り)することで投資効率の向上が望めます。
さまざまな点で学ぶことの多かった一冊です。
【大林会長の著書】
⑵ 株主総会で感じた3つの”虚構”(2022年5月時点)
なぜ、PBRが0.7倍と低いのか?
自分は何か重要なことを見落としているのではないか?
そのような問題意識を持って2022年5月の株主総会に参加しました。
そして、下記のような3つの”虚構”が関わっているように感じました。
ただし、ここでいう”虚構”とは嘘ということではなく、”多くの人々が正しいと信じ込んでいる話”という意味。
あの有名な『サピエンス全史』に登場した概念です。
3つの”虚構”は下記のとおりです。
”ステークホルダー価値を最大にする”という虚構
社長は会社に関わるさまざまなステークホルダーの価値の最大化に努めるとおっしゃっていました。
でも、実際には”お客様のため”という大義名分を利用してFCのオーナーの犠牲の上に会社の財務基盤の安定化を図っているのではないかと感じました。
その根拠は2つ。
●昨年も、今年もFCオーナー株主から価格改定の提案があったにも関わらず、社長からお客様のためにならないからと冷徹にその提案が否定され続けていること。
●その一方で、星乃珈琲でもドトールバリューカードを利用できるようにしてほしいというお客様の要望に対しては、システム経費が十数億円かかるからやらないと断言していること。
FCオーナーに対してはお客様のために自己負担を強いておきながら、システム経費の負担になるからと言って、お客様の利便性を重視しない経営を続けています。
絵に描いたようなダブルスタンダード!
これでは、投資家の理解は得られません。
ちなみに、質問した株主の最寄りの星乃珈琲店は潰れたそうです。
”星乃珈琲は今後も続く”という虚構
日本レストランが経営している星乃珈琲は今後も続くのでしょうか?
意外とジリ貧かもしれないと感じています。
そう考える根拠は2つ。
●神乃珈琲の登場
星乃珈琲と名前も業態もよく似た神乃珈琲がドトール系列で登場しました。
電子決済が可能でもちろんドトールバリユーカードもOKです。
星乃珈琲と完全に被っており、しかも消費者にとっては便利です。
●ドトール珈琲農園の登場
最近、ドトール珈琲農園という新しいブランドのお店を利用しました。
外見はドトールですが、席に注文を取りに来てくれたり、店内に豪華なボックス席やシャンデリアがあったりしています。
星乃珈琲とドトール珈琲のいいとこどりをしたようなブランドです。
これでは、星乃珈琲がなくなっても消費者は何も不自由しません。
星乃珈琲の存在意義はどこにあるのでしょうか?
ドトールのブランド展開にちょっと”エグさ”を感じています。
”ドトールと日本レストランがいつまでも一緒”という虚構
ドトールバリューカードが日本レストラン系列のお店で使えないのはシステムをつなぐためのコストだけの問題なのでしょうか?
合併してから15年が経って、未だにシステムが別々というのはちょっと不思議に思います。
同じような大丸と松坂屋が合併したJFRのクレジットカードを以前保有していましたが、大丸でも松坂屋でも問題なく使えました。
大部分の会社では時間がかかっても統合する流れを辿るのが”ふつう”だと思います。
けれども、ドトールバリューカードは将来的にも日本レストラン系列で使えるようになる兆候は見当たりません。
ひょっとして、両社は将来また別々の会社になることを考えているのではないかという”妄想”が浮かんできました。
合併解消の可能性が否定できないのなら、15年経っても、お客さまに不自由をかけても、顧客情報を共有するメリットがあることが分かっていても、システムを統合しない現状に納得できます。
いずれにしても、一個人でも3つの”虚構”を感じるくらいなので、投資にシビアなマーケットからはより厳しい評価がなされていてもおかしくはありません。
そのことがPBR0.7倍という不人気につながると考えます。
ちなみに、サンマルクHDはPBR1倍。
さらに、いきなりブレーキがかかってGC注記(継続企業の前提に関する注記)がついているペッパーフードサービスですら、PBRは4.98倍。
上場を危ぶまれている会社よりも不人気であり、PBR1倍割れというのは尋常ではありません。
4 金融リテラシーについて
2021年5月の株主総会で、FCオーナー株主の価格改定についての発言はよく覚えています。
同じドトール日レスのステークホルダーなのに、会社側は大幅赤字にもかかわらず経営基盤は盤石。
それに対して、カフェを営むオーナー側は生きるか死ぬかの瀬戸際。
このような天国と地獄の違いを生んだ違いは何か?
考え込んでしまいました。
もちろん結論には至りませんが、ひとつには金融リテラシーがあるのではないかと思います。
人がお金と上手に付き合っていくには3つの資本が必要と言われています。
●人的資本(首から上の頭脳労働力(スキル、知識、経験)、首から下の肉体労働力)
●社会的資本(人脈、地位、家族、友達、地方自治体や国からの支援やサービス等)
特に、コロナ禍のような状況では、個人は、人的資本を活かした本業の一本足打法では厳しいかもしれません。
収入源を多様化するためにも金融資本を活かすリテラシーが欠かせません。
そしてそれは、一朝一夕にしてできるものではなく日々取り組み続けるべきものだと痛感しました。
これに対して、安全性重視の経営については今の所うまく機能していると思います。
利益剰余金をこつこつと毎年積み上げてきた”成果”が表れています。
ただし、成長戦略が明確に説明されることもなく、将来性については疑問を感じています。
【株主優待】
5 まとめ
ドトール日レスホールディングスについて述べてきました。
PBR0.7倍という市場からの評価の低さに関わることとして3つの”虚構”を指摘しました。
商品やサービスを磨けば消費者へのブランド力は高まるかもしれませんが、それだけでは市場や投資家へのブランド力にはつながらないと感じました。
また、2回株主総会に参加していますが、資本の論理、冷徹な経営について考えさせられることが多い総会でもありました。
最後に、総会で価格改定の提案をされたFCオーナーの株主に幸あれ!
お読みいただき、ありがとうございました。
※当ブログに掲載されている所感は、あくまでも個人的見解に基づくものであり、特定銘柄への投資を推奨するものではなりません。投資は自己責任でお願いします。
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